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民間月面探査プログラム HAKUTO-Rハクトアール

民間企業による月面探査計画

人類の月面探査は、20世紀にはアポロ計画などに代表される大規模な無人・有人探査事業が実施されていました。しかし、その後は巨額の資金が必要なことや商業化の難しさから、各国政府によって小規模な無人探査が実施される程度に留まっていました。

しかし、近年ではロケット打上げコストの低下や技術の発展、国際共同の月探査計画Artemis(アルテミス)の進展などを背景に、米国民間企業による月面探査・開発事業への参入が相次ぎました。そして2018年9月、日本でも民間宇宙ベンチャーispace(アイスペース)による商業月面探査・輸送プログラム「HAKUTO-R(ハクトアール)」が始動しました。

ispaceとHAKUTO-R

HAKUTO-Rは、ispaceによって計画された商業月面探査・輸送プログラムの総称です。これは元々2007年~2017年に企画されたGoogle社の月面探査車レースに向けて開発されたHAKUTO計画を拡大・発展させたもので、HAKUTO-Rの「R」は再起動(reboot)に由来しています。残念ながら月面探査車レースは、全ての参加予定者が月面に探査車を送り込めずに終了しています。

ispaceは日本に本社を置き、米国(ispace US)とルクセンブルク(ispace EU)にも拠点を持つ日本企業です。月面着陸機(ランダー)は日本・米国それぞれの拠点で、ローバー(月面探査車)はルクセンブルク拠点で開発が進められてきました。

同社は月面着陸機に搭載するペイロード(荷物)スペースの販売、月面探査データの販売やスポンサー収入等によって商業月面探査・輸送サービスの事業化を目指していますが、依然として大幅な赤字を計上している段階です。

なお、ispaceは2023年に東証グロース市場に上場しています。同社は投資家から継続的な資金調達を行うとともに、日本政府から強力な財政支援(SBIRフェーズ3や宇宙戦略基金)を受け、宇宙開発の中でも難易度が高いとされる月面探査・開発事業に取り組んでいます。

HAKUTO-Rミッション1

HAKUTO-Rミッション1(以下、M1)は、HAKUTO-Rプログラム最初の月面探査・技術実証ミッションです。このミッションでは、月面まで様々なペイロードを輸送できる月面着陸機Series1(シリーズワン)の開発が、ispace日本拠点主体で進められました。ペイロードにはパートナー企業である日本特殊陶業の固体電池、アラブ首長国連邦の小型月面探査車、JAXAの変形型月面ロボット等々が搭載されました。

Series1は総重量約1トン、搭載可能ペイロード30kgの比較的小型の月面着陸機です。初の技術実証ミッションであったM1では自社技術に拘らず、外部パートナーの技術も積極的に活用する体制で開発が進められました。

推進系のコンポーネントは欧州アリアングループから調達しており、キー技術である月面着陸誘導制御システムの開発は、アポロ宇宙船開発も担った米ドレイパー研究所が担当しました。これら月面着陸誘導制御システムの一部技術は、ispaceに技術移転されるとのことです。

Series1は2022年12月11日、米国のFalcon9(ファルコンナイン)ロケットにより打上げられ、無事予定の軌道投入に成功しました。Series1は順調に飛行を続け、3月には月周回軌道の投入に成功。そして4月26日、月面着陸を試みたものの、高度測定ソフトウェアの不具合によりSeries1は月面に激突、着陸機は大破しました。しかし着陸へ至る様々なデータ取得には成功しており、得られた情報は後続のミッションへとフィードバックされています。

HAKUTO-Rミッション2

HAKUTO-Rミッション2(以下、M2)は、M1同様の技術実証ミッションです。この計画に使用された月面着陸機RESILIENCE(レジリエンス)は、M1で使用されたSeries1とほぼ同一の機体ですが、LRF(レーザーレンジファインダー)の換装や、M1からフィードバックされたデータをもとに設定パラメータの変更等の改修が施されています。

RESILIENCEには、高砂熱学工業の月面用水電解装置など6つのペイロードが搭載されましたが、特に注目を集めたのはTENACIOUS(テネシアス)と名付けられたマイクロローバー(月面探査車)です。

このローバーはispaceルクセンブルク拠点で自社開発された総重量5kg、搭載可能ペイロード1kgの極めて小型のローバーです。ローバーに搭載されているスコップで月面の砂をすくい、月面初の商取引となるNASAへの譲渡を目指したほか、ミニチュアハウスを月面に設置するなどの様々なミッションが計画されていました。

2025年1月15日、RESILIENCEは米国のFalcon9ロケットによって打上げられ、無事予定の軌道に投入されました。2月15日には月でスイングバイを実施し、低エネルギー遷移軌道への移行に成功。その後も順調に航行を続け5月7日、月周回軌道への投入に成功しました。

そして6月6日。再度の月面着陸に挑みましたが、十分な減速が出来ず月面に激突。機体は破壊され、ミッションは失敗に終わりました。原因調査の結果、LRF(レーザーレンジファインダー)から有効な測定値が得られず、十分な減速が出来ていなかった為と結論付けられました。

HAKUTO-Rプロジェクトの終了

2025年12月7日、ispaceはHAKUTO-Rプロジェクトの終了を発表しました。但し、これはispaceの月面探査・開発事業が技術実証フェーズから商業化初期フェーズへ移行したことを意味するもので、月面着陸へ挑戦が終わった訳ではありません。ispaceは今後、新ランダー「ULTRA」の開発を進め、ミッション3(2028年)・ミッション4(2029年)と月面着陸への挑戦を続けると表明しています。

UPDATE:2026年4月3日

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