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民間の通信衛星コンステレーション・非地上系ネットワークCommunication Satellite Constellation

注目される通信キャリアの宇宙開発事業

このページでは、日本の大手通信企業、NTT・KDDI・ソフトバンク・楽天の通信衛星等を活用した非地上系ネットワークと、史上最大の衛星通信ネットワークStarlink(スターリンク)について解説していきます。

最近の宇宙空間を活用した通信には衛星コンステレーション、つまり多数の小型人工衛星が協調動作する大規模なシステムとなることが多く、多額の資金を必要とします。楽天を除く三大キャリアと呼ばれる国内通信企業は豊富な資金力を有しており、大規模な宇宙事業が期待されます。

Starlink

まず通信衛星コンステレーションを語る上で、Starlink(スターリンク)は外せません。スターリンクはアメリカの民間宇宙企業スペースX社が、開発・打ち上げ・運営している世界最大の衛星コンステレーションです。2024年現在、すでに6,000機以上の小型通信衛星を打ち上げ済みであり、他社の追随を全く許していません。

日本国内でもサービスが提供されていおり、通信には小型アンテナが必須ですが、災害時のネットワークとして大変重宝されています。また次世代型スターリンクも開発されており、こちらは携帯端末と直接通信が可能となる見込みで、2024年頃からのサービス開始が予定されています。

NTT

NTTは日本最大の通信事業者です。NTTは2022年、スカパーJSAT(国内最大の衛星通信・放送事業者)との合弁会社Space-Compass社(スペースコンパス)を設立し、宇宙事業を本格的に開始しました。スペースコンパスは主に2つの宇宙事業を計画しています。

まず宇宙データセンタ事業。最初の段階として、地上観測衛星・通信衛星と地上局の間を中継する「光データリレー衛星」を静止軌道上に展開します。衛星間通信には従来の電波通信より高速な光通信が使用され、準リアルタイムなデータ取得が可能になる見込みです。衛星-地上間通信には状況に応じて光通信と、地上局上空に雲があっても利用可能な電波通信を使い分けます。

光データリレー衛星1号機として、米スカイルーム社と共同開発した「SkyCompass-1」を2024年末頃に、その後2026年頃までに追加で2機を打ち上げ、サービスを全世界へと広げる計画です。将来的には、他社の地球観測衛星の観測データをデータセンター衛星で受信・処理後、地上に送信する機能の保有も目指しています。

2つ目は宇宙RAN事業。これは、成層圏・宇宙空間に構築される無線通信ネットワークです。この事業はまずHAPS(ハップス-高高度プラットフォーム)と呼ばれる航空機を活用します。HAPSは通信基地局機能を搭載した無人航空機で、高度20km前後の成層圏を長期間滞空出来る、空飛ぶ基地局です。特徴として直接携帯端末と通信可能な事・低遅延である事が上げられます。HAPSにはヨーロッパのAirbus(エアバス)社の Zephyr(ゼファー)無人機をベースに開発が進められており、2024年度から試験飛行が開始、早ければ2025年度から一部離島でサービスが開始されます。

将来的には低軌道及び静止軌道上に通信衛星が追加され、成層圏と宇宙空間に広がる、光と電波によるネットワークの構築を目指しています。この事業は、NEC・アクセルスペース・NICTと共に、内閣府の「光通信等の衛星コンステレーション基盤技術の開発・実証」プロジェクトに採択され、2029年度までに最大で600億円の資金が投入される見込みです。このプロジェクトにより製作される低軌道用の光通信衛星実証機は、2026年度に打ち上げられる予定です。

他にも、NTTは米アマゾン社が主導する低軌道通信衛星コンステレーションProjectKuiper(プロジェクト・カイパー)にも参画していますが、出資はしておらず、日本の宇宙開発に与える影響は不明です。

KDDIとソフトバンク

KDDIは国内2位の通信事業者です。しかし、KDDIは独自の非地上系ネットワークを有しておらず、完全に海外他社に依存しています。財務は健全で、資金力はある為、将来の通信衛星ネットワーク構築を期待されます。

ソフトバンクは国内3位の通信事業者です。非地上系ネットワークとしては、NTTと同じくHAPSによる通信ネットワーク構築に力を入れており、無人機Sunglider(サングライダー)を、米AeroVironmentと共同開発しています。2026年頃にHAPSと地上局を中継する光通信衛星を打ち上げ・実証試験を実施する計画で、サービス開始は2027年頃を予定しています

他にも、親会社のソフトバンクグループが10.9%出資している、ヨーロッパのユーテルサット社が展開している「低軌道衛星ネットワークOneWeb(ワンウェブ)」を活用したサービスを計画しています。ワンウェブは、高度1200km付近に数百機の通信衛星コンステレーションを構築済みであり、これらは携帯端末との直接通信ではなく、別途アンテナを必要とします。

また、ソフトバンクグループが出資している米Skylo-Technologiesと提携して、静止軌道上の衛星から地上のIOT端末の情報を収集するサービスが計画されています。

楽天

楽天グループは近年携帯通信事業に新規参入した情報通信企業です。楽天自体に衛星打ち上げ計画はありませんが、アメリカの衛星通信事業者AST-SpaceMobile社にマイノリティ出資しており、低軌道衛星ネットワークSpaceMobile(スペースモバイル)の提供を目指しています。

スペースモバイルの特徴は、通信衛星自体が巨大なアンテナを搭載する事により、地上の携帯端末と直接通信できる事です。これらの通信速度は一般的なモバイルネットワークと比較して低速ですが、地上基地局がない山間部や離島、災害時にもモバイル通信サービスが提供される事が期待できます。

2022年09月、64平方メートルもの巨大なアンテナが搭載された実証衛星ブルーウォーカー3が米ファルコン9ロケットで低軌道上に打ち上げられ、スマートフォンと衛星の直接通信に成功しました。2024年には、65平方メートルのアンテナを持つ商用衛星ブロック1ブルーバード5機を打ち上げる予定ですが、延期が繰り返され心配されています。

さらに、2025年頃には222平方メートルの巨大アンテナを持つブロック2ブルーバード衛星を打ち上げる計画もあり、将来的には数百機で構成される通信衛星コンステレーションにより、世界中でサービス提供が可能となる見込みです。

通信衛星の打ち上げ需要

通信衛星コンステレーションは多数の衛星を打ち上げる必要がある為、多数のロケットを必要とします。これらの打ち上げ需要を日本のロケットで獲得する事は、日本の宇宙開発にとても重要です。

スターリンク衛星は、自社のファルコン9ロケットで打ち上げていますので、これらを日本から打ち上げ事はまずありえません。現状の国内の通信衛星打ち上げ需要で最も有望視されるのは、スペースコンパスが構想中の通信衛星コンステレーションと考えられます。ワンウェブ・スペースモバイル・カイパーの打ち上げ需要は、H3ロケットが軌道に乗れば受注できる可能性はあります。

UPDATE:2024年5月19日

主な参考ページ

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